超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

そいつ

 あくびをしたら、向こうもあくびをした。くしゃみをしたら、向こうもくしゃみをした。思い切って手を振ってみたら、向こうも手を振りかえした。なのに近づいてみると、そいつはただの首吊り死体だった。さっきのあくびやくしゃみは、ぼくの「寂しい」という気持ちが生み出した幻だったのか。「友だちになれると思ったのにな」そう言いながら、冷たいそいつの肩を叩くと、そいつは申し訳なさそうにぶらんと揺れた。集まっていたカラスたちが「アホー」と鳴いた。そんなわけでまだぼくはひとりぼっちだ。