超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

玉手箱

 行きつけの本屋の前にパトカーが停まっていた。顔見知りの店員がいたので、どうしたのかと尋ねると、泥棒が入ったのだと言う。「何を盗まれたんです?」「玉手箱を」聞けば、開店の準備のために店に来ると、絵本のコーナーが荒らされていることに気づき、よくよく調べたところ、「浦島太郎」の絵本から玉手箱がなくなっていたのだという。「何のために盗んだんですかねえ」訊かれてもわからないので曖昧にうなずいておいた。結局、犯人も玉手箱もいまだ見つかっていない。あれ以来、その本屋で老人を見かけるたび、何か知っているのではないかと思って、少しそわそわする。