超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

注意

 母と二人、車で旅行に訪れた山中で、一本の標識を見つけた。「動物とびだし注意」。そんな文字の上に描かれていたのは、鹿でも狸でもなく、数年前に失踪した父の顔だった。「……待ってみる?」スピードを落とし、助手席の母に訊くと、母は「嫌よ、行って行って」と即答した。だが再び車のスピードを上げた時、母は「……でも、ひかないでね」とぽつりとつぶやいた。そこから目当ての温泉旅館に着くまで、車内はずっと無言だった。