超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

はんぶん

 うしろはんぶん色をぬり忘れられたネコが
 透明なうしろはんぶんを
 木漏れ日の中にひたしている
 木漏れ日の色に染めたくて

 夕方になれば うしろはんぶん色をぬり忘れられたネコは
 透明なうしろはんぶんを
 おしげもなく夕日にさらす
 夕日の色に染めたくて

 まえはんぶんだけぶち模様の
 うしろはんぶん色のないネコは
 裏路地のすみっこにたくましい色の糞をひり
 しばらくそれにみとれている

 うしろはんぶん色のないネコは
 いつだって優柔不断だ

 うしろはんぶん色のないネコは
 糞を眺めるのに飽きると
 透明なしっぽをふりふり
 くしゃみをしながら今夜の寝床をさがしに出かける

 明日からしばらく雪になることを
 うしろはんぶん色のないネコはまだ知らない
 たぶんこの冬彼は
 おなかを冷やして困るだろう