超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

琥珀の子

 部屋に差し込む夕日を浴びてうたた寝をしていた娘が、夕飯の時間になっても部屋から出てこない。仕方なく呼びに行くと、娘は眠ったまま巨大な琥珀の中に閉じ込められていた。娘を包んでいた夕日の光が夜の冷気で固まって、そのまま琥珀になったらしい。
 夫や学校の先生、娘の友達と話し合った結果、娘の琥珀は、娘が通う小学校の玄関に飾られることになった。他の子どもたちに夜の恐ろしさを伝えるためだ。小さいが立派な台座も用意してもらい、テレビや雑誌の記者も取材にやってきた。
 平凡な夫と平凡な私との間に生まれた平凡な娘が、琥珀のお陰で後世に語り継がれる存在になったのだ。そう考えると、鼻ちょうちんも輝いて見える。思わず涙がこぼれた。