超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

舌と蜂蜜

 妹の唇をこじ開ける。

 中を覗く。

 舌のない妹の口の中を、妹の舌の幽霊がうろうろしているのが見える。

 私は蜂蜜の瓶の蓋を開ける。

 スプーンを取り出す。

 蜂蜜をすくう。一さじ。一さじで充分だからだ。

 私は舌のない妹の口の中に、蜂蜜を流し込む。

 妹の舌の幽霊がはっとして立ち止まるのが見える。

 舌のない妹の口の中を、妹の舌の幽霊の足元を、蜂蜜は老いた蛇のように、ゆっくりと喉の奥へと流れ落ちていく。

 妹の舌の幽霊は、うつむいて、ただじっとその様子を眺めている。

 私はそれを見つめている。一日でいちばん静かな時間だ。