超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

姫と王子

 コンビニの棚でお姫様が眠っていた。
 実際どういう素性のやつかなんて知らないが、見た目はもう「お姫様」としかいいようのない女で、枕元にはごていねいにかじりかけの林檎まで転がっている。昨日までこの棚にひしめいていたポテトチップスやチョコレートはどこかに片づけられ、お姫様のつま先はおつまみのコーナーまで侵略しようとしていた。
 腹が減っていたので、とりあえず向かいの棚のカップラーメンを取ろうとした。しかし、お姫様の顔をのぞき込んでいる馬っ鹿みたいなつらの小人たちが通路を塞いでいて、このままでは空腹の処理もままならない。
 レジの方を見ると、頼みの店員たちはみな肩や胸にきらきらした勲章をつけて、その大きさや色を自慢しあっている。そういえば小人たちの息からは、酒や弁当のにおいが漂っている。その足下にはソーセージやカニかまのビニールが散らばっていて、並木道の落ち葉のように通路をすっかり覆っている。店員が小人たちにおもねったのだ。
 非常にいらいらして、目の前に並べられている乾電池でも、連中にぶつけてやろうかと思った。
 しかしそのとき駐車場に自転車がとまって、そこに「王子様」としかいいようのない男が乗っていたので、ぐっとこらえることにした。男は自転車のカゴにぎゅうぎゅうに入ったいくつかのゴミ袋を、店先のゴミ箱に詰めはじめた。家庭ゴミを捨てているのだ。やっぱり非常にいらいらしたが、「もしお前がお姫様にキスをして、やつが目覚めたりしたら、ゴミの件くらいはかばってやるから」と思ってぐっとこらえた。