2023-01-01から1年間の記事一覧
荒野の果てに立っていた謎の塔の正体が爪楊枝だと判明し、地球は試食品である可能性が出てきた。
雀たちが集まればいいなと庭に米粒を撒く爺さんに向かって、ボランティアの人たちが雀の剥製を次々と投げ込む。
もう修理のしようがないと判断されたその扇風機は、壊れるまでの余生を、物置の片隅で、地球儀を回して過ごした。
また祖父が影を神社に忘れて帰ってきた。
デートの最後に、キスの仕方で、俺の脳味噌が百均で買ったものだとバレた。
美食家の依頼を受けた釣り人たちが、下水道にひしめいている。
今日は空で雲将棋が行われているので、東西から交互に吹いてくる風が気持ちいい。
処刑室から空気清浄機の音が聞こえるので、処刑が終わったらしい。
病院のベッドの上で点滴に繋がれている巨大なサツマイモに、焼きイモ屋の店主が、「美味しいよ~……」と囁いている。
「鏡を見ないでください」とだけ表示されたニュース速報。
籠に髪の毛をぎっしり詰めた自転車に乗った、禿げ頭のおじさんが、床屋の前を通り過ぎる時、ベルをチリンチリン、と鳴らした。
死んだ恋人と散歩する際に、道に落ちていたら素敵だろうと思い、落ち葉をちぎってハート型にしようとするが、手が震えてうまくちぎれない。
炊き立てのご飯の香りがする香水をつけた女が、梅干しを握りしめながら、男が来るのをじっと待っている。
立ち読みの指南書を立ち読みする。
ボロボロの宇宙服を着ているそのホームレスは、毎晩月に向かって、新聞紙で折った紙飛行機を飛ばしていたが、最近はただ新聞紙を丸めただけの物を投げるようになった。
自動ドアが反応しなくなってきたので、そろそろまた病院に行かなければ。
おっさんが哺乳瓶を飲みながら運転している軽トラとすれ違った時、その軽トラの荷台に、巨大な赤ん坊のはりぼてが載っていることに気づく。
最近、近所の火葬場の煙突から出る煙が、「?」の形になっている日が多い。
夜中のゲームセンターで、色とりどりに光る首吊り縄の周りに、笑顔の若者が集まってくる。
いつもより長く停車していたゴミ収集車が去った後のゴミ捨て場に、「遺書」と書かれた封筒がぽつんと残されている。
夜中、くすぐったさで目を覚ますと、母が、私の尻尾に、油性マジックで切り取り線を書いている。
「見てください、この瞳」と通販番組の司会者が言うと、カメラは商品である瓶の中の小人たちをアップで映し始めた。
刑務所の入り口にある囚人の涙の自販機が売り切れたので、再び囚人たちは各々の寝床で、昔のことや今のことを考え始めた。
霊柩車見たらお腹空いちゃった、と笑って彼女は僕の手を取り、墓場の方へ駆けていった。
温かい人形が好きなので、何度も電子レンジで温めるが、だんだん溶けて人形は醜くなってしまう。
その男は毎年一回私の店を訪れて、背中の蝿捕り紙の刺青に、蝿を一匹ずつ彫り足していく。
首吊り縄の輪の内側に綺麗な蝶がとまっていて、首を吊れない。
喫茶店のカウンター席で、隣に座っているおじさんが編んでいる首吊り縄の端っこが、俺のコーヒーに浸かっていることを、いつまでも言い出せない。
手術当日の朝、僕に繋がれた点滴袋をふと見ると、薬の中を泳ぐ鯨が、僕を励ますように潮を噴いた。
遺体安置室案内のアプリを見ている時、「満」のマークを見つけると、何だか嬉しくなる。