超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

裸足

自殺したクラスメイトの葬儀の案内に「裸足で来てください」と書かれていたので、裸足で行くと、俺以外の列席者が全員靴を履いている。

海の底

海の底から、カッ、チャッ、ガスコンロのツマミをひねる音がした。

花嫁

深夜の台所で、夫が、「花嫁の入場で~す」と笑いながら、ゴキブリ用の罠の中にゴキブリを放り込むのを見てしまう。

背中に翼が生えている私の友人は、子どもの頃からずっと気象予報士を目指している。

日記

海の底に沈んできた、どうやら自殺したらしい少女の日記を、チョウチンアンコウの光の下で、少しずつ読み進める。

電球

いつの間にか奥歯が一本電球に換えられていて、猫の肉を食うたび光る。

賭博

猫賭博で百二十万円分の鰹節をすってしまった。

SNS

死者しか利用できないSNSで、彼女は毎日、ぼくの家の合鍵の写真をアップしているそうだ。

ラムネ菓子

おままごと用のおもちゃセットの中に、ラムネ菓子の精神安定剤が入っていた。

喫煙所

家庭にも職場にも居場所のない男が、町はずれの喫煙所で、周りの喫煙者にぺこぺこ頭を下げながら、金魚を食っている。

一滴

どんなにしっかり栓を閉めていても、その蛇口は、私が死にたい、って考えると、水を一滴、ぽちょんと落とす。

変換

私のスマホはいつも「じゅけん」を「呪犬」と変換する。

私以外誰もいなくなった街に、雪に混じって線香の灰が降る。

私から「ぎ」という言葉を盗んだ金魚が、「ぎ」と言うたびに口から吐く、いびつな形の泡。

メモ

首吊り自殺をした兄の遺品のスマホのメモアプリに、 ク・・・ ビ・・・ビール ツ・・・ リ・・・ というメモが残されていた。

夏空

夏の午後、ふと見上げた空に、雪だるまのタトゥーを入れた入道雲が。

戦争の原因となった一輪の花が、国境の境目で、毒ガスを浴びてゆっくりと立ち枯れていく。

白菜

赤ん坊を抱く練習をするために買った白菜のレシートを、ずっと財布に入れたまま、孤独死しようとしている。

校長

真夜中、誰もいない体育館の壇上で、校長が、虚空に向かって「人肉を食べたい」という話をし始めるが、マイクがキーンキーンと鳴り、次第に何を言っているかわからなくなっていく。

その蝶を追いかけて、太陽は今日、東へ沈んだ。

そのピアノの調律師は、いつも一匹の蛙を連れている。

求愛行動

雄餃子が求愛行動の時に発するあのにおいが好きなので、餃子セットに別料金を払って雌餃子をつけてもらったのに、間抜けなことに、間違えて雌餃子を一番先に食ってしまった。

すべての言語の「私を殺してください」という言葉を覚えた男が、旅支度を始めた。

黒電話

地獄に置かれた一台の黒電話を亡者の群れが取り囲み、鬼に背中を鞭で打たれ続けても、何かからの着信をじっと待っている。

メール

死んだ恋人から、メールが届く。「君のピアノが聴きたい」ピアノを習っていたのは、私の姉だ。

柔らかい口

幼い頃かわいがっていたクマのぬいぐるみの柔らかい口がもぐもぐ動いて、妊娠した私の腹を食い破ろうとしている。

汚い車

近所を走る汚い車のへこんだフロントバンパーに、油性マジックで書き込まれた「ネコ」「ネコ」「ネコ」「ガキ」「ババア」の文字。

文字の森

東にある文字の森ではね、もう「愛」の字は捕まえられないよ。全滅したんだ。ある女の子のラブレターが原因でね。

盛り上がる話

防犯カメラ同士の合コンで絶対に盛り上がるあの泥棒の話。

養鶏場

養鶏場の中に、鶏に混じって、手元のスマホをつまらなそうに眺めながら、次々と卵を産む人間の女が。