超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

掌編集・七

(一) 駅前の公園を掃除している彼女は、明け方、公園の隅で冷たくなっていた私を、ゴム手袋越しに拾い上げると、波模様のハンカチに包んで、清掃服のポケットに突っ込んだ。ハンカチの中はざらざらして冷たかった。 昼休憩の時間、彼女は彼女以外誰もいな…

仕返し

家の柱がささくれていたので、剥いてみたら血が流れ出てきた。つーっと。 とりあえずそのままにして部屋に戻ると、私の部屋が少し狭くなっていた。

パートタイマー

珍しく朝早く目が覚めてしまった。何か遠くで機械の音を聞いたのだ。しかし何だったのかはわからない。 眠りなおすには半端な時間だったので部屋のカーテンを開けると、窓の外、夜が明けたばかりのきめ細やかな青色をさっと広げた空に、野球ボールのように真…

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現代詩を発表されている「silentdogの詩と昼寝」というサイト様です。 独特の世界観も、語り口も、言葉のセンスも、ちょっとただものじゃありません。

影と夕暮れ

自分の影と喧嘩別れした。 夕暮れが物足りなくなってしまった。

嘘つき

(毎朝、誰かのうめき声が聞こえて、目が覚める。) 嘘つきめ。 う、嘘つき、 嘘つきめ。 (私の声だ。) (突っ張った喉から、しわがれた私の声が、切れの悪い小便のように、ちょろちょろ、ちょろちょろと漏れているのだ。) 嘘つき、 うう嘘つき。 嘘つき…

埃男(怪談)

(夕暮れ。公園の公衆トイレ。) (疲れた顔の男が入ってくる。) (墓石のように並んだ小便器の一番奥に人影が見える。) (男は人影と離れた小便器の前に立つ。) (人影は用を足しているふうでもなく、ただひたすら股間の辺りをもぞもぞといじっている。…

妻水

妻はある朝、水になりました。そしてその日から浴槽の底で、ゆらゆらと揺れています。 妻が突然水になり、私の生活は寂しくなりました。 妻が好きだったバナナを浴槽の底に沈めると、水になった妻は嬉しそうにぬるみます。 そのことが余計に私を寂しくさせま…

海の断章

旅行先で海の欠片を拾った。持ち帰って窓辺に飾ってみた。 窓から風が吹き込むたびに、海のない町の我が家に、潮の香りがひろがっていく。その潮の香りの中にうっすらと、外国の酒の匂いが混じっているときもある。 * 眠るときは海の欠片を枕元まで持ってく…