超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

力こぶ

 朝、テレビの映りが悪い。おまけに、廊下の電気がちかちかしている。またか。ベランダの窓を開ける。我が家の目の前に立っている電信柱、こいつが原因だ。この電信柱が、登校途中の女子高生たちに、最近できた力こぶを自慢するために、くの字に折れ曲がったりまっすぐになったりを繰り返している。そのたびに電線が揺れて電気が不安定になるのだ。このコンクリートの力こぶを、女子高生たちが面白がって写真に撮ったりするから、ますます調子に乗ってしまう。ううむ。そういうお年頃なのか?もう少し大人になってほしい。

石の城

 夜中、喉が渇いたので台所に行くと、暗い天井の近くに、バナナが一本浮いていた。熟すのを待とうと放っておいたバナナが、三日月の真似をしているのだった。ひざまずいて祈る真似をしてみた。バナナが頭上で照れるのがわかった。水を飲み台所を去る時、振り返るとバナナがおやすみと左右に揺れていた。おやすみと手を振りかえして寝床に戻った。その夜は囚われの姫を石の城から救い出す夢を見た。三日月の似合う城だった。

黒鍵

 朝起きたら、わき腹にピアノの黒鍵がくっついていた。子どもたちの笑顔に囲まれるすごく幸せな夢を見ていたのは覚えているが、意外なキャスティングで登場していたようだ。わき腹の黒鍵を押すと、ぷりん、と変な音がした。ダイエットをしろということなのだろうか。仕事から帰る頃にはいつの間にか消えてなくなっていた。

ヒマワリ

 スマホの待受画面をゴッホのヒマワリに設定した。誰に見せるわけでもないけど、何かかっこつけたかったのだ。しかし、その日から、外を出歩くたびに、数本のヒマワリに後を尾けられるようになってしまった。この辺に、ヒマワリが咲いている場所なんてないのに。このヒマワリたち、何をしてくるわけでもなさそうだが、しかし、尾行の目的がわからないから、いまさらスマホの待受を他の画像に変えるのも何となく怖い。明るい画面のスマホを持ち歩きながら、ヒマワリの尾行に怯える日々。せめて写楽とかにすればよかった。尾けられても言葉は通じそうだから。いや、でもあのデカい顔で見つめられたらそれはそれで恐ろしい。じゃあモナリザ?ダメだ、イタリア語なんてわからない。ああ、もう。誰に見せるわけでもないのに、かっこつけなければよかった。