理科の実験で解剖したカエルの腹の中には、感謝の言葉が綴られた置手紙の他に何も入っていなかった。
慕情
俺の住む町の海岸にある日、大量の手紙が流れ着いた。
町の人々がそれを拾い集めて読んでみると、そこには覚えたてらしいたどたどしい文字で「わたしのこどもをかえしてください」と書かれており、傍らに幼いクラゲの絵が添えられていた。
人々は口々に「かわいそうに」とか「手分けして探してやろうか」とか言っていたが、本当にそう思っている奴は一人もいなかった。
俺も適当に話を合わせ、手紙をポケットに突っ込み、アパートの部屋に帰った。
「おかえりなさい」
女房の声が聞こえた。
襖を開けると、西日の強い部屋の真ん中、座布団にちょこんと正座している女房と、幸せそうな様子でその乳を吸っているクラゲがいた。
クラゲも女房の乳房も、昨日より少し大きくなったように見えた。
「今日、あたしの顔を見て笑ったのよ」
「そう」
俺は答え、さっきの手紙を細かくちぎって小便と一緒にトイレに流し、子育てで疲れている女房のために夕飯を作り始めた。
霧の国
玄関のドアを開けると、ちょうどトイレのドアが開いて、合い鍵を渡しているウェイトレスが出てくるところだった。
気まずい沈黙が数秒続いた後、ウェイトレスは何も言わずに手を洗い、そして私を急かすように、銀のお盆を指先でトントンと叩いた。
私はもうほとんど取れかけている胸の糸を抜き、半分しか残っていない心臓をウェイトレスに手渡した。
ウェイトレスは心臓をお盆に載せ、手際よくフォークとナイフを添えて、さっさと部屋を出ていった。
その夜、ベッドでじっとしていると、部屋のポストに何かが落ちる音がした。
見に行くと、四分の一ほどになった心臓と、お金の入った封筒が投げ込まれていた。
予想よりもずっと少ない額だった。
すっかり小さくなった心臓を胸の中に戻し、遠くに輝くレストランの灯りから逃れるように、頭から布団をかぶった。