雨が降るとは聞いていたけど、横殴りの風が吹くなんて聞いてない。
必死になって傘を握りしめていたらいつの間にか、手首の部分を固定している糊が、雨水で剥がれてしまっていた。
よりによって友達と一緒に帰っている時にだ。
あーあ。また転校だ。
種と扇風機
夏の暑さも和らいできたので扇風機を片付けようとすると、畳の上に小さな黒い種が落ちた。
スイカを食べた時に何かの拍子でくっついたのだろう。
種を拾い、庭に投げ捨てて扇風機を物置にしまった。
*
翌年のある春の日のことだった。
ふと庭を見ると、去年何気なく種を捨てた場所から、ちっちゃな扇風機が生えていた。
物置に元の扇風機を見に行くと、枯れた色の羽根を床に落とし、本体はすっかり萎みきっていた。
こうなると知っていればもっと日当たりの良い場所に埋めたのに。
とりあえず今年の夏に間に合うように頑張って育ててみることにした。
ショートしそうで水はまだあげられていないけど。
カボチャ
ゆでた掌をザルに上げた瞬間、風呂上がりを連想してビールを飲みたくなった。
何でだろう。お酒なんて一滴も飲めないのに。
一度だけ飲んだことはあるんだけど、気持ち悪くなるばかりでちっとも酔えなかったから、それ以来お酒は飲んでいない。
もちろんビールも。
でも、テレビとかで観る風呂上がりのビールってやつは美味しそうな感じがする。
あれは飲んでみたい。どんな味がするんだろう。私の舌でも美味しいのかな。
……この人はお酒とか飲めたのかな。
ほかほかと湯気をたてる掌を菜箸でつつきながら思う。
私がもしお酒飲めて、楽しい気分になって、嫌なことを忘れられる人間だったら、こんなことにはならなかったのかな。
関係ないか。わかんないな。ああ、わかんなくなってきた。
カボチャ潰そう。