てっきり子猫だと思って拾ってきたのだが、掌に乗せて差し出した餌を、こいつ、耳の穴で吸い込みやがった。
蛸の絵
漁港に遊びに行った帰り、蛸を丸ごと一匹買い、生きたまま発泡スチロールの箱に詰めてもらった。
家に帰る車中で、一緒に遊びに行った娘が、バッグに入れておいた色鉛筆をなくしたと騒ぎ出したので、途中文房具屋に寄って新しい色鉛筆を買っていった。
家に着き、蛸の入っている箱の蓋を開けると、蛸は八本の足に娘の色鉛筆を握りしめたまま息絶えていた。
驚いて固まっていたら、娘が「あっ」と叫んで箱の蓋を指さした。
蓋を裏返してみると、そこには、今まで読んできたどの絵本にも載っていないくらい鮮やかな竜宮城の絵が描かれていた。
あれは蛸が実際に見た風景だったのか、それとも蛸が死ぬ前に見たかった風景だったのか、それともただの落書きだったのか。
蛸を茹でている間、ずっとそんなことを考えていた。