超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

花火女

 花火女のクミコさんが、火薬の詰まった頭を氷枕にのせて、悔しそうに夏祭りの灯りを眺めている。
 「来年こそは打ち上がってやる」と彼女は意気込んでいるが、俺としてはその前にプロポーズするつもりだ。

蛸の絵

 漁港に遊びに行った帰り、蛸を丸ごと一匹買い、生きたまま発泡スチロールの箱に詰めてもらった。
 家に帰る車中で、一緒に遊びに行った娘が、バッグに入れておいた色鉛筆をなくしたと騒ぎ出したので、途中文房具屋に寄って新しい色鉛筆を買っていった。
 家に着き、蛸の入っている箱の蓋を開けると、蛸は八本の足に娘の色鉛筆を握りしめたまま息絶えていた。
 驚いて固まっていたら、娘が「あっ」と叫んで箱の蓋を指さした。
 蓋を裏返してみると、そこには、今まで読んできたどの絵本にも載っていないくらい鮮やかな竜宮城の絵が描かれていた。
 あれは蛸が実際に見た風景だったのか、それとも蛸が死ぬ前に見たかった風景だったのか、それともただの落書きだったのか。
 蛸を茹でている間、ずっとそんなことを考えていた。

猫の粒

 飼いはじめたばかりの猫が逃げてしまった。
 猫の粒を水で戻す時に、水の分量を適当に量ってしまったせいだろう。
 もったいないことをした。
 猫の粒、高かったのに。
 「本物に近い」ってやつ買ったから。
 本物知らないけど。