公園の藤棚の鳥の巣に、給食のパンをちぎってあげていたら、立派な服を着た人たちが空の上からおりてきて、「巣の中に巣があるわね」と笑いながら僕にパンを投げて寄越した。
僕は力なく笑いながら、パンについた砂を払った。
弟か妹のつもりで接していた屋根裏のネズミがある日、俺の部屋にお別れを言いに来た。いつものぼさぼさの毛皮ではなく、小さな宇宙服を着て、小さなヘルメットを小脇に抱えていた。
天井を指さすので、天井の板を外し屋根裏を覗くと、小さな通信機の光のチカチカの向こうに、小さなロケットのシルエットが堂々とそびえていた。
餞別の絆創膏をネズミに手渡して、目的地に着いたら手紙でもくれよと言うと、ネズミは少し笑ってチュウと答え、俺の服の中にもぐりこみ、へそにキスをして屋根裏に戻っていった。
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その日の晩、天井からぶら下がる裸電球を眺めながらベッドに寝転んでいたら、予期せぬ轟音とともにアパートがブルブルと揺れた。
ネズミのロケットが発射されたらしい。
慌てて窓の外を見ると、ねじれたロウソクみたいな変な形のロケットが、真っ直ぐ夜空に向かって飛び去っていくところだった。
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発射の時の衝撃でアパートはしばらく停電になるし、部屋も廊下もあちこち埃だらけになるし、屋根に大きな穴が空いて管理人は怒っているし、まったくしょうがないやつだと思いながら、今は毎日ポストを覗いて、ネズミからの手紙をひそかに待っている。
本を閉じて目薬をさし、土曜日の月に腰かけて、生まれ育った町をぼんやりと眺めている。
かじりついたドーナツからこぼれた砂糖の粒が、星のふりをして夜空に降り注ぐ。
生きていた頃と何も変わらない退屈な町が、少しだけ色っぽく見える。
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背の高いマンションのベランダで語らっていた若い夫婦の奥さんの胸に抱かれた赤ん坊が、キラキラ光る砂糖の粒をじっと見つめている。
野菜の大きなシチュー、ハンドクリーム、卒業証書を入れた筒、夜中のエレベーターに漂う化粧の匂い、汗でべたべたした男の背中。
赤ん坊の顔を見ているうちに、とりとめもなくそんな記憶が溢れてきて、何だかよくわからないけど、夜が更けて月が消えるまではここでドーナツを食べながら、あの赤ん坊をからかってやろうという気分になった。