2016-10-01 額縁とクラゲ マリコからきいた話 描かれた海がほどけ、水の色を脱いだクラゲが額縁から逃げ出した。 見つからないように私の家を抜け出し、野良猫の追跡をふりきり、海へ行く列車に乗り込んで、今頃はどこかの勤め人の革靴の上で疲れた体を休めているだろう。 * 残された私は空っぽになった額縁を物置にしまう。 首輪だけが残された犬小屋や、文字の消えた手帳が隅で埃をかぶっている。 何も映さない鏡台の前に座り、膨らんだ空っぽのお腹をさする。 庭の大きなクルミの木の枝では、老いた母鳥が空っぽの卵を温めている。