超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

寝返り

 満月の夜、彼女の耳は、魚のえらになる。ぼくは彼女を風呂場へ連れていき、浴槽の中のぬるい水に沈める。少し苦しそうだった彼女の寝顔が、すうっと笑顔に変わる。ぼくにはその瞬間が、うれしくて寂しい。満月の夜、彼女は水の中でほんとうの彼女に戻る。ぼくは寝室へ戻り、乾いたシーツの上で大きく寝返りを打つ。満月の夜、ぼくらは同じ屋根の下で、ひとりきりになる。