超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

婆さんと蜘蛛

 古本屋の店番をしているよぼよぼの婆さんと、その店の隅にでっかい巣を張っている蜘蛛は、ときどきその立場を入れ替えている。たまに店を覗くと、蜘蛛が店番をして、蜘蛛の巣の真ん中で婆さんが茶をすすっていることがある。なんでも、お互いに死ぬことを忘れてしまった者同士、退屈を紛らすために、時折そうして遊んでいるらしい。婆さんからきいたのか蜘蛛からきいたのかは忘れてしまったが、どうもそういうことらしい。俺みたいな若造にはピンとこない話だ。死なない婆さんと死なない蜘蛛は、誰も買わない本の山の向こうから、今日もせわしなく動き続ける町を眺めている。