超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ペラッ

 しとしとと雨が降り続ける午後、静かな部屋に、本のページをめくる音だけが、やけに大きく響いている、ペラッ……ペラッ……ペラッ、それ自体は何でもない音だが、問題は、それが身重の女房の腹の中から聞こえるということだ、俺は訊く、「……病院の先生は何て?」、女房は答える、「何も。首かしげてた。ほんと、どっから運び入れたんだか」、「……何読んでんのかもわかんないの?」、「わかんない。検査してもらってもよく見えなくて。とりあえず、分厚い本としか。ああ、重い、めちゃくちゃ重い」、そんな会話を遮るように、……ペラッ、また音が聞こえる、痛む腰をさすりながら女房が、「どういうつもりなんだかねえ」とため息をつく、雨が降り続けている、また一ページ本がめくられる、俺は何も答えられず、とりあえず虚空に向かってお尻ペンペンの練習を始める。