超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

UFO

 ある日の夕方、ドーナツ屋の窓から、青色と赤色のドーナツが次々に飛び出してきて、まるでUFOの大群の一斉攻撃のように、町のあちこちへと飛び去っていった。あるものは干されていた布団に突っ込んで布団をべたべたにし、またあるものは放課後の教室に飛び込んでトランプゲームの景品にされ、またあるものはおなかをすかせたヒナたちの待つカラスの巣へ参上し親ガラスに感謝され、とにかくそういう風にして、町のあちこちにドーナツが飛び交い、追い払われたり食べられたりして、町は少しの間、大騒ぎだった。

 この大騒ぎに、ドーナツ屋の主人は店から慌てて駆けだしてきて、しばらく虫取り網を手にドーナツを追いかけていたが、そのうち疲れ果ててベンチに座り込み、
「ゆうべあんな夢を見たせいだ、あの夢のせいだ」
 としくしく泣き続けていたが、その夢がどんな夢だったのかについてはとうとう誰にも教えなかった。(ずいぶん後になって、ドーナツ屋の奥さんがこっそり教えてくれたところによると、主人はその頃SF小説にずいぶん凝っていたらしい。が、それが夢の内容と関係あるのかどうかについては結局わからないままである。)

 騒動の後、ドーナツ屋はすぐに閉店し、今その場所は駐車場になっている。