超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

恐竜の恋人

 毎夜見ていた夢の中で、私には恐竜の恋人がいた。
 ある夜、まだ夢を見る前に彼が私の部屋を訪ねてきて、一番大きな牙を手渡してきた。
 覚えたばかりの恐竜の言葉で「どうしたの?」と訊くと、彼はたどたどしい日本語で「もうお別れだから」と答えた。
 その日、ベッドの中で彼と抱き合って見た夢の世界は、隕石でめちゃめちゃに壊されていた。
 翌朝、いつものように一人で目覚め、昨日もらった牙を歯ブラシの隣に立てかけて、少し泣いてからいつものように会社に向かった。
 いつもの満員電車に揺られながら、とうとう最後まで言えなかった「食べていいよ」という言葉を頭の中で何度も繰り返していた。