トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。だいたい土曜日更新。

海辺

 殺風景な私の部屋の隅には、床から目が生えている。

 私はそんな目の前で寝ころんで、朝から窓の外の秋空を眺めている。

 目はじっと目を閉じている。

 

 

 私がこの部屋にやってきた時から、目は一度も目を開けたことがない。

 目はただじっと目を閉じている。

 

 

 窓の外が眩しい。

 私は目を見ながら、そっと息を吐く。

 床と同じ色のまぶたに挟まれた長いまつ毛が、ぴくりと震える。

 ぴんとそそり立ったまつ毛の影は、目のそばに投げ出された私の指に、まるで鉄格子のように重なっている。

 

 

 私は今日この部屋を出ていく。

 その前に、目にきちんと告げなければならない。

 私は寝ころんだまま、目を指で撫でながら、目に語りかける。

「ごめん、嘘ついてた」

「私は一人じゃない」

 まぶたの薄皮の向こうで、目玉がころころと動いたのがわかった。

 

 

 私は起き上がり窓を開ける。

 ぬるい風が吹き込んできて、まつ毛を揺らす。

 私は鞄を手に取り、目の方を振り返る。

 床に小さな水たまりができている。

 

 

 私は玄関で靴をはき、ドアを開ける。

 秋の光が道を照らしている。

 

 

 一歩踏み出そうとした時、背後で聞いたことのない音がした。

 たぶんあれは目が目を開けた音だ。

 

 

 私は振り返らず、殺風景な部屋の薄汚れた天井を思い出しながら、後ろ手にドアを閉める。

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