夫が珍しく自分でスーツをハンガーに掛けていたので、ちょっと調べてみると、スーツの内ポケットに、小さな卵が入っていた。
ああこれ帰り道に拾ったんだと、夫は言った。何の卵だろうねと、夫は言った。何の卵だと思う? と、夫は言った。
夫の分厚い掌の上にのせられた、少し桃色がかった小さな卵に鼻を近づけると、若い女の血のにおいがかすかに漂ってきた。何の卵だろうねと、答えながら、手の中に軽く握ってみると、卵は案外重たくて、中身がぎっしり詰まっている感じがした。
夫が寝たあと、夫の下着に卵を包んで、二度三度踏んでから、洗濯機に放り込んだ。冷たい水が、しゃりしゃりと小気味良い音を立て、渦を巻きながら、白く醜く濁っていくのを、夜の闇の中で見届けた。