超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

傷と別れ

 恋人と夜道を歩いていたら、暴漢に首を刺されてしまった。一瞬の出来事で、うまく反応することもできないまま、とにかく痛みと驚きで全身の力が抜け、そのまま道に倒れてしまった。

 おそるおそる首に手をやると、ぱっくり開いた傷口から止めどなく血が吹き出ている。恋人は泣き叫びながら、道に倒れた私を抱き起こした。

 人々が集まってきて、ざわざわしていた。しかし意識はどんどん遠のいていく。救急車など呼んでくれた人もあったようだが、これはもう死ぬだろうと思った。

 最後に愛する人の顔をきちんと見ておこうと、涙で顔をぐしゃぐしゃにしている恋人に目をやると、その涙に映る私の首筋、ぱっくり開いた傷口から、血ではなくて古い綿が飛び出していた。