トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

月と猫

 病院のベッドから窓の外を見ると、空に立派な三日月と、三日月にしがみつく黒い大猫の姿が見えた。猫はふさふさした前足で必死に三日月の端を掴み、ずり落ちないように踏ん張っていて、夜空に投げ出された後ろ足は、じたばたとむなしく空を切っている。目をこらすと、月に細かな爪痕がいくつも残されていた。

 喉の奥から搾り出すような声で鳴きながら、月から落ちまいとしている猫を見ているうちに、応援したいというより、何だかとても悲しくなってきてしまった。飛躍しすぎかもしれないが、あの猫が月から落ちたとき、私も死ぬんだと考えた。それで、あの猫を見守るべきなのかもしれないとも思ったが、カーテンを閉めて布団を頭からかぶって寝たふりをすることにした。朝が来るまで、猫のかすれた鳴き声が耳から離れなかった。やりきれない思いがした。

 その後も三日月の晩が訪れるたびに猫も現れたが、そのうち、しがみつき方や鳴き声がいつも同じだったり、最初に見たときよりも猫が少し肥っていることに気づいて、急に興ざめした。そもそも、よく考えたら、あの猫と私の病気は何の関係もないのだ。誰のいたずらか知らないが、人が不安になっているときに、そういう意味ありげなことをするのはやめてほしいと思う。

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