トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

メロン

 廃墟になっている病院に肝試しに行ったら、天井を逆さまに歩いていた看護婦さんに捕まって、緑色の液体が入った注射を打たれた。気がつくとぼくはメロンになっていて、ある病室のベッド横に置かれた果物かごの中に放り込まれていた。今はかごの中でじっとしながら、ベッドの主が現れるのを待つ日々だ。最初の頃は、一緒に肝試しに来た仲間は今頃どうしているだろう、などと考えて寂しかったものだが、自分はメロンになってしまったんだと割り切ると、それはそれで悪くないものだ。早く食べられてしまいたいとさえ思う。問題はここが廃墟だということなのだが。

ぴかぴか

 ベランダに星が落ちてきた。ずいぶんくすんだ星だった。てぬぐいで磨くとぴかぴか光りだした。じゅうぶんぴかぴかになったところで、星はぼくの手を飛び出してベランダをぴかぴか跳ね回った。そしてそのままぴかぴか跳ね上がっていき、やがて夜空へ帰っていった。星に向かって軽く手をふると、星はぴかぴか光った。さっき開けた缶ビールをかかげると星はぴかぴか光った。ビールを飲み干して大きなげっぷをすると星はやっぱりぴかぴか光った。こうしてぼくにはぴかぴか光る友だちができた。いやなことがあった時やさびしいことがあった時には、ベランダに出て星に手をふる。星はぴかぴか光ってこたえてくれる。ぼくのたいせつな友だちだ。いつかぼくが死んだら、かんおけに缶ビールを二本入れてもらおう。

百円分

 動物園にライオンを見に行ったが、たてがみのあるライオンが一頭もいない。通りかかった飼育員に訊くと、「百円になります」と言われた。何のこっちゃと思いつつ百円玉を手渡すと、飼育員はライオンの檻の中へ入り、端でごろごろしていた一頭のメスライオンの背中をぽんぽんと叩いた。よく見ると、面倒くさそうに立ち上がったメスライオンの首の後ろにはコイン投入口がある。飼育員がそこへさっき渡した百円玉を入れると、メスライオンの顔の周りにいきなりぼわっとたてがみが生え、あっという間に勇ましいオスライオンになった。そいつはそのまま俺の方へ近づいてきて、たてがみを見せつけるようにぐるりと一周して、元の場所へ戻ってまたごろごろし始めた。やがて百円分の時間が終わったらしく、たてがみがしゅるりと引っ込んで、また元のメスライオンに戻ってしまった。「今日はまだあと一回くらいいけますけど」飼育員が檻の中から俺にそう言ったが、「いいです」と答えてそのまま動物園を後にした。言いたいことは色々あったけど、まぁ、とりあえず百円分は堪能できたかな。

ちょうちょ

 学校の花壇の花の周りを、何かころっとしたものが飛び回っていた。よく見るとそれは固結びにされたちょうちょだった。ので、きちんとちょうちょ結びに戻してやると、ちょうちょはほっとしたように花の蜜を吸っていた。どこかの悪ガキの仕業だろう。今度の全校朝礼で注意してもらおう。

 理科準備室を掃除していると、一番奥の棚の隅に、不思議な色の液体が入ったビーカーを見つけた。ビーカーのラベルには、理科の先生の奥さんの名前が書かれていた。「振ってごらん。軽くね」いつの間にか理科の先生が斜め後ろに立っていて、僕に言う。先生はにこにこ笑っていて、僕はその笑顔に何か不吉なものを感じる。だが、言われた通りにしないと理科の成績や内申書が悪くなるかもしれないと思い、しぶしぶビーカーをゆっくり振ってみる。すると、中の液体が揺れながらほのかに光りはじめた。柔らかくあたたかい光だ。「おかしいな」と背後で先生が呻いた。振り返ると、先生が明らかに悔しげな表情を浮かべていた。ビーカーの中の液体が熱を発しはじめている。通知表と内申書という言葉が頭の中をぐるぐる回っている。