トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

廃墟にて

 廃墟になった一軒家のある部屋で、劇薬の入った瓶のラベルを読みながら、パジャマ姿のガイコツが首をかしげている。
 いくら飲んでもちっとも効いている感じがしないのだ。
 一刻も早く死んでしまいたいのに、薬を間違えたのかしら。
 困り果てている女の頭蓋骨の片隅に、ある考えが浮かぶ
 これはもしかしたら、まだ死んではいけないよ、っていう神様からのメッセージなのかな。
 しかしその考えを肯定してしまったらとんでもないことになってしまいそうな気がして、ガイコツは慌てて首を振り、再び瓶のラベルに目を落とす。
 自慢だった大きな胸の内側に蜘蛛の巣が張っていることにも気づかないまま。

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腕と光

 私の左腕は夜になると光り出す。
 それは暖かい朝の光だ。
 耳を当てれば市場らしき喧噪や子どもたちの声、そしてかすかに波の音が聞こえてくる。
 どうやら私の左腕の皮膚の下は、誰かの気まぐれによって、どこか遠い国とつながっているらしいのだ。
 左腕の中で風が吹くと、果物や女の匂いが鼻をくすぐる。
 雨の音がする日には、子どもの泣き声や猫が喉を鳴らす音が聞こえてくる。
 だから寂しい夜には、私は家中の剃刀や包丁を隠して眠る。

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ゆうべの歌

 ゆうべの私の鼻歌に誘われてきたらしい一艘の船が、浴槽の残り湯にぽつんと浮かんでいた。
 またやってしまった。
 船の上の人々は、ぼんやり立ち尽くす私を見上げてぴーぴー何かわめいているが、申し訳ないけど私にはどうすることもできない。
 なるべく船の方を見ないようにして、一思いに風呂の栓を抜いた。
 シャワーヘッドにとまったカモメの群れが、哀れむような目で私を見つめていた。

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誘う目

 女性の目が好きだ。
 だから俺が恋人の写真を撮ると、自然と顔のアップが多くなってしまう。
 ある日彼女がアルバムをめくりながら、「○○君って、食べられない部分ばかり撮るんだね」と言って笑った。
「アルバムめくるたびにお腹空いちゃうから?」
 俺はただ黙って頬笑みつつ、育ちの違いというものをしみじみ噛みしめていた。

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 ねえ、給食の時間に目隠しさせられるのって、うちのクラスだけらしいよ。

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