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トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。隔週土曜日更新。

影と休日

 人込みの中を一日歩いて帰ってきたら、私の影に細かい傷がたくさんついていた。
 休日の街を、みんな笑いながら、手をつないだりして、楽しそうに歩いていたのに、本当はどんな気持ちで歩いていたのだろう。

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イミテーションゴールド

 脚の間から浮気相手がひょいと顔を覗かせ、「ここに蝶のりんぷんがついてますよ」と言った。
 夜の間に家の誰かが標本のピンを抜いたのだろう。
「舐めたら風邪ひくわよ」と答えると、浮気相手がおじいさんみたいな声で笑った。

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星と塩素(改訂)

 

 生徒が帰った後の夜のプールを片づけていたら、突然水面に何かがバシャンと落ちてきた。
 おそるおそる近づいてみると、何だか丸くて、柔らかく光っている。
 根拠はないが危ないものという感じはしなかった。拾い上げてみるとほんのり温かかった。
 一体これは何なのだと手の中でこねくり回しているうちに何かピンと来て夜空を見上げると、案の定いつもより星の数が少ないような感じがした。
 どうやら星の一つがうっかり落ちてきてしまったらしい。
 届くかどうかわからないがとりあえず夜空に向かって思い切り投げてみたら、星は吸い込まれるように夜空に戻っていった。
 大事にならなくてよかった。ほっとして家に帰った。

 あれから毎年この季節に夜空を見上げると、プールにいるわけでもないのに、ふいに塩素のにおいが鼻をつくことがある。
 最初のうちはただ懐かしいなぁと思うだけだったが、今はせめて水で洗ってあげればよかったと少しだけ申し訳なく思っている。

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スタンド・バイ・ミー

 俺がバイトするコンビニに深夜、オモチャのロボットが酒を買いに来た。
 自分の背丈ほどもある缶ビールを抱えて出ていく足音が、カチャカチャと物悲しかった。
 街はもう3月だ。
 オモチャのロボットにも酔わなきゃやってられないような別れがあるのだろう。

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月と夜空(改訂)

 夜の屋台でかけ蕎麦を手繰っていたら、つゆに満月が映っているのに気が付いた。
 月見そばか、と心の中で冗談を言いながらつゆをすすると、月が前歯にこつりとぶつかった。
 思ったより腹の足しにはなったが、夜空は真っ暗になってしまった。

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