超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

けなげ

「こっちがあんたのほんとのお父さんなのよ」母はそう言って涙ながらに、飼い猫を抱き上げた。飼い猫(と今まで私が思っていた猫)が照れくさそうににゃあと鳴いた。首には首輪のかわりにネクタイを締めていた。最近、父(と今まで私が思っていたおじさん)のネクタイに絡まって遊んでいるのをよく見かけたが、あれは挨拶のためにネクタイを結ぶ練習をしていたのだと気がついた。けなげなやつめ。ああ、やつって呼ぶのは失礼なのかな。なんだかめんどうだね。まあ、これから、よろしくお願いします。最初の家族会議の議題は「あのおじさんどうする?」だ。