超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

羽根

 近所に、のれんに「羽根」と書かれた店がある。毎日おおぜいの虫や鳥が訪れているところを見ると、本当に「羽根」の店なんだろう。ある日その店に、疲れた様子の中年サラリーマンが入っていくのを見た。どうなるんだろうと遠巻きに眺めていると、サラリーマンは背中にアゲハチョウの羽根をつけた状態で現れた。照れくさそうな顔だった。きっとあの人、明日から出勤が楽しくなるんじゃないかな、と思った。ところが次の日、仕事に行くため駅に行くと、向かいのホームから出発しようとしていた電車が騒がしい。アナウンスに耳を澄ませる。「お客様の羽根がドアに挟まってしまったため、ただいま安全点検を行っております」よく目をこらすと、なるほどアゲハチョウの羽根が電車のドアに挟まって外へはみ出していた。昨日のサラリーマンだった。飛んでいけよ!