超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

迷子

 夏祭りの人ごみの中を歩いていたら、赤い浴衣を着た女の子に、服の裾を引っ張られた。
「どうしたの?迷子?」と訊くと、
「どこから外に出るの?」と尋ね返された。
「あっちだけど……」と大通りの方を指しつつ、
「……外にお母さんかお父さん、いるのかな?」と再び訊くと、
 女の子は「お姉ちゃんがスーパーにいる」と答えて、駆け去ってしまった。

 確かに近くにスーパーマーケットはあるが、子どもの足では五、六分はかかるだろう。
 慌てて追いかけると、視線の先に女の子がいた。

 しかし、声をかけようとした時、
 街灯に照らされた彼女の影が、人間のものではないことに気づいた。
 それは、林檎飴の影だった。

 お姉ちゃんのいるスーパーに行くって、
 果物売り場のことか。
 しかし、会いに行ってどうするんだろう。
 君、もう、飴まみれだぞ。

 いや、余計なお世話か。

 そんなことを考えているうちに、女の子の姿は消えていた。
 とりあえず、夏祭りの会場に戻り、
 林檎飴の屋台に、飴一つ分の小銭を置いて立ち去った。
 屋台の姉ちゃんは不思議そうな顔をしていたが、
 その顔はすぐに人ごみの中に紛れて見えなくなった。