超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

思い出

 町外れにある古い映画館で「思い出の映画上映会」という催しがあると市報で知り、上演されるのは私が幼い頃に観たことのある作品だったので、早速観に行ったのだが、映画が始まってみると、内容が記憶とだいぶ違う。ストーリーは飛び飛びだし、外国映画なのに、全然見たこともない日本人夫婦のカットが脈絡なく差し込まれている。当時日本で公開されたバージョンとは違うものなのかとも考えたが、何だか釈然としない。
 どうにも気になって映画館の従業員に尋ねてみると、「自分ではよくわからないから支配人に訊いてみてくれ」と、映写室まで案内された。少し緊張しながらノックをして扉を開けると、そこには映写機につながれたよぼよぼのお爺さんがいて、幸せそうな顔で干からびていた。