超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

つばさ

彼女の名だけが書かれた封筒が、私たちの住んでいるアパートに毎月送られてくる。封筒を開けると、中には数枚の羽根が入っている。 封筒が届いた日の夜は、彼女といっしょに風呂に入る。彼女の背中のでこぼこした部分に、羽根を一枚ずつ挿していくのだ。 彼…

休憩と軽食

後部座席でうとうとしていたら山道の途中で車が止まった。 「ガス欠だな」と父さんが言った。 「さっき入れたばっかりじゃない」と母さんが言った。 父さんと母さんが車を降りてあちこちを調べ始めた。私と妹はぼんやりした目でそれを眺めたり眺めなかったり…

目眩

気がつくと、それを握りしめたまま、自販機の横にある空き缶用のゴミ箱に、手を突っ込んでいる、 手を離すと、ガコン、という音がする、思っていたよりもずいぶん大きな音だ、 ゴミ箱にたかっていた二匹の蟻が、一瞬身体を強張らせて、そそくさと逃げ出す、 …

ぴーっ

病室のベッドに、子どもの名前が書かれた四角い機械が置かれている。 傍らには父親らしき男が座っている。 父親らしき男はポケットから笛ラムネを二つ取り出し、一つは自分の口にくわえ、もう一つを機械のトレーの中に放り込む。 父親らしき男が笛ラムネを吹…