超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

西日

 窓から差し込む西日を何気なく指でつまんだら、案外あっさり剥がれてしまった。
 窓の形に剥がれた西日をひらひらさせながら、何か良い使い道はないかとあれこれ考えてみたが、俺の頭では何も思いつかなかった。
 一瞬、そういえばトイレットペーパーが切れかかっていたな、と頭をよぎったが、その案はすぐに却下した。
 結局、西日は近所の川に投げ捨てた。
 ジュッ、と音を立てて西日は消え、俺の指先には何か埃っぽいにおいが残された。

冷たい風船

 冷蔵庫の扉を開けた瞬間、飛び出てきた風船に鼻の頭を小突かれた。
 昨日買ってきた手首がどうしても離そうとしなかったので、仕方なくそのまま入れたのだった。
 邪魔くさいなぁとは思うが、この風船が萎みきってしまう頃には手首も使い物にならなくなっているはずなので、そういう意味でわかりやすい目安ではある。

 ある夜、交差点で信号待ちをしていたら、車のボンネットに何かが落ちてきた。
 車を降りて拾い上げてみるとそれは流れ星で、表面に苔のようなカビのようなものが薄くびっしりとくっついている。
 どうやら色々な人の願い事を背負いすぎ、その重みで落ちてきてしまったらしい。
 このままにしておくわけにもいかないので、表面にくっついたそれをあらかた叩き落して、流れ星を空に帰してやった。
 流れ星に祈ったのに願いが叶わない人がいたら、もしかしたら私のせいかもしれない。

暑中見舞い

 昔の友人から突然暑中見舞いのハガキが届いた。
 消印は「海の底」で、スタンプはタコの吸盤だった。
 昔から住み家も仕事もふらふら定まらない風来坊だったが、額からちっちゃな提灯が生えた可愛い赤ん坊を抱いているこの写真を見る限り、ようやくあいつも落ち着いたらしい。
 今年の年末ジャンボが当たったら、潜水艦でも買って遊びに行こう。