超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

痕跡と目撃者

 ホットケーキを焼き上げて皿に載せ、テーブルに置いたところで、ハチミツを切らしていることを思い出した。
 何かかわりになる物ないかな、と冷蔵庫の中を覗いていた時、背中の方で何かがピカッと光った。
 咄嗟に振り向いたが何もいない。
 外の天気も台所の蛍光灯も異常はないようだ。
 首をかしげながらテーブルの上にふと目をやると、まだ温かいホットケーキに、ちっちゃなミステリーサークルが残されていた。
 やられた。
 いつの間に入ってきたんだろう。
 明日から猫でも飼おうかな。

増築

 大人になって自分の家を持った。
 金が貯まるたびに、家を上へ上へと増築していった。
 夜空の星を少しでも近くで見てみたかったのだ。
 ある時ふと気がついた。
 星に近づくたびに、接着剤のにおいが強くなっていく。

 朝、駅に行くと、3番線に巨大な繭が横たわっていた。
 いつもの列車が蝶になろうとしているようだ。
 奇妙な静けさの中、4番線にやってきた列車が、いつもの面子を飲み込んだあと、ため息をつきながら扉を閉めた。