超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

味見

 味見しようと菜箸でつまみあげた里芋が、つるんとすべって落ちてしまった、と思ったら、エプロンの前ポケットから子どもの手がにょきっと出てきて、里芋をつかんで再びポケットに引っ込んでいった。前ポケットをつまんで中を覗いてみるが、なぜか真っ暗で何も見えない。ただその暗闇の奥から、ふんふんと静かな鼻息の音が聞こえる。いつかのフリーマーケットで見つけて、好きな柄というわけでも手頃な値段というわけでもなかったのに、どういうわけか一目ぼれしてしまったエプロンだ。知らず知らずのうちに今の手の主に惹かれていたのかもしれない。「味はどう?」前ポケットの中に問いかける。小さなげっぷが返ってくる。悪くない。なぜかそう言っているように思えたので、結局味見はせずに皿に盛りつけた。悪くはなかった。