超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

くしゃくしゃ

 洗濯機から洗濯物を取り出すと、何だか全部ほんのりピンク色に染まっている。色物なんてなかったはずなのに、おかしいなと思い調べてみると、シャツの胸ポケットから、くしゃくしゃになった恋心が出てきた。このシャツを着ていたのは先週の金曜日。ああ、そうだ、駅であの人を見かけた日だ。初めて見る人なのに妙に胸がドキドキするとは思ったが、どうやら一目惚れだったようだ。そのとき胸から飛び出した恋心が、胸ポケットに引っかかってしまったらしい。くしゃくしゃになった恋心をそっと広げると、ほのかに甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。今日は金曜日、もう一度駅に行ってみようかな。今度は胸ポケットの無い服で。