超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

パラソル

 どしゃ降りの中を傘をさして歩いていると、足下からほんのり甘い香りが漂ってきた。見ると、茶色い水たまりの中に、パラソル型チョコレートの柄の部分だけが、ぽつんと浮かんでいた。何となく眺めていたら、皺だらけの手が現れ、それをひょいと拾い上げた。駄菓子屋の婆さんだった。「あたしは止めたんだけどねぇ」そんなことをぶつぶつ言いながら去っていく婆さんの背中が、妙にさびしく見えた。