トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

思い出した

 四歳か五歳くらいのとき、ある日とつぜん、頭の中に、家族の寿命が見えたことがある。

 忘れちゃいけないと思い、画用紙に家族の名前と享年をメモして、自分のおもちゃ箱の中にしまっておいた。

 しかしちょっと目を離した隙に、当時やっとハイハイが出来るようになった妹が、いつの間にかその紙を持ち出し、食べようとしていた。いつもなら兄としてすぐに吐き出させるのだが、そのときはなぜか止められず、ただぼーっと眺めていた。結局妹は口の周りをクレヨンだらけにしたあと、首をかしげて、よだれまみれの画用紙を丸めてぽいっと捨ててどこかに行ってしまった。私は一人でその紙を細かくちぎり、トイレに流してすべて忘れることにした。

 今こうして思い出してみると、なぜあの日あのとき、家に幼い妹と私しかいなかったのだろうか、妹はどうやって音もなくおもちゃ箱を開けて紙を取り出したのだろうか、そもそもあそこは本当に私の家だったのだろうか、部屋の細部が他の記憶と違っている気がする、あ、あ、それから、紙に書いた家族の名前の中に、一人だけ知らない名前があって、そいつだけがやたら長生きだったことも、今思い出した。

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