超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

痙攣と休息

 雨が降っている。道に、傘が開いたまま落ちている。開いたまま落ちているその傘の下で、何かが交尾している。間違いなく、何かが交尾している。

 部屋の真ん中に、本が開かれたまま落ちている。窓から差し込む月明かりで、本の表紙が青白く光っている。その本の下で、何かが交尾している。

 私は手足を縛られて、冷たいリビングに転がっている。ネイルハンマーをか細い腕の先にぶら下げた若い女が、私の前をうろうろ歩いている。女が何か話すたび、女の目玉がぐるぐる回る。私は何か答えたいが、女の話すことの意味がさっぱりわからない。日が暮れていく。ベランダに干された洗濯物が、夕日を浴びて笑っている。不意に私は背中の下に気配を感じる。私の背中の下で、何かが交尾している。女が突然私を怯えたような目で見る。