超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

骨とバット

 ある日道端で骨を拾った。漫画に出てくるような太くて真っ直ぐな骨で、野球のバットのかわりに使えそうな立派なものだった。
 僕は少年野球のチームに所属しているが、家が貧乏なのでバットはいつも監督から貸してもらっている。それでいじめられたりしたことはないが、いつも何となく居心地が悪い。この骨を削って僕のバットにするのもいいかもしれない。そんなことを考えながら空き地に行き、骨で素振りをしてみた。案の定重さも長さもちょうどよかった。
 するとそこへ知らないおじさんがやってきた。何だか険しい顔をしている。
 おじさんは手にやかんを持っていて、僕に「そんな汚いものを触っちゃいけない」と怒鳴ってきた。ちんちんに熱されたやかんを見ながら僕が困惑していると、おじさんは「煮沸消毒をしなきゃいけない」と続けた。
 シャフツショウドクという響きに恐ろしくなり、おそるおそる骨だけ渡そうとすると、おじさんは「触っちゃったんだから君の手も消毒しなさい」と言って僕の肩を掴み、骨と、骨を握ったままの僕の手に有無を言わさず熱湯をかけてきた。
 ものすごく熱かった。しかし、「熱い」と文句を言うと怒られそうでじっと黙っていた。おじさんはずっと険しい顔をしていた。本気で僕のことを心配しているようにも見えた。
 やかんのお湯が尽きると、おじさんは何も言わず帰っていった。湯気をたてる水たまりに変に青白い空が映っていた。僕は空き地に一人残され、煮えた骨と、真っ赤にただれた手を見ながら、「この骨はおじさんの骨だったんだ」と思っていた。