飲み屋で友人と騒いでいたはずだったが、気がつくと夜道に倒れていた。服も携帯もゲロまみれだった。周りには誰もいなかった。
倦怠感が拘束衣のように全身にまとわりついていた。頭が痛かったので手を当てると、血が流れていた。口の中に錆びた鉄の味がした。
ふと空を見上げた。夜空には何もなかった。星も月もどこかに姿を消してしまっていた。むしょうに寂しくなった。このまま死んでしまいたいと思い、目をつぶった。
と、その瞬間、バリッ、という音がした。薄い紙を破いたような音だった。私は目を開けた。
夜空から、大きな指が突き出していた。ずいぶん肥った指だった。
指はしばらく動かなかった。何か声を掛けたほうがいいのかもと思ったが、何と声を掛ければいいのかわからなかった。
しばらく指を見ていたら、胃で熱いものが蠢き出したのを感じた。私は口をおさえた。不意に指が引っ込んだ。
夜空に穴が開いていた。穴の向うから白くて涼しい光が差し込んできた。光はあちこちに飛び散り、星になっていった。
胃からこみ上げてきた熱いものが、鼻や口からものすごい勢いで噴き出してきた。ゲロかと思ったら、血だった。
「マジで死ぬかも」
と思ったその時、穴の向うに、大きな瞳が見えた。青いような赤いような黄色いような瞳だった。
瞳はきょろきょろとひっきりなしに動いていた。しかし、一度も私を見てくれはしなかった。あんな大きな瞳なのに、私の姿は見えていないようだった。私はこのまま、マジで死んでしまうかもしれないのに。
私はむしょうに悲しくなって目を閉じた。風が頬を撫でた。再び目を開けると、瞳は消えていた。夜空には月が残された。
それからあとは何も起こらなかった。
私の意識は薄れていった。