超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

パオパオ

休園日の動物園の象舎を点検しに行くと、象がパオパオ笑いながら踊り回っていた。 やめろと言っても聞こえていないようだったので、持っていた竹箒で頭を引っぱたいて無理矢理黙らせた。 後で他の飼育員に聞いたら、象の中の奴ら、休園日だからって朝から酒…

掌編集・十三「煙突、口が痛い、虎と下着」

【一.煙突】 友達と遊んだ帰り道、ふと何か嫌な気配を感じて後ろを振り返ると、近所の工場の煙突に大きな喉仏がくっついていて、夕焼け空を飛ぶ鳥の群れをごくごくと飲み込んでいた。 【二.口が痛い】 口の中が痛くて目が覚めた。 どうも口内炎や虫歯とい…

掌編集・十二:壁、十二時、クミコ

【一.壁】 日曜日の昼下がり、4歳になる息子が庭に出て、にこにこ笑いながら家の壁にホースで水をぶちまけていた。 いたずらしちゃダメでしょ、とホースを取り上げると、息子は困ったような顔をしてあっさり引き下がった。 次の日の朝、庭に出て洗濯物を干…

いい雨

蛙が口笛を吹いている。 今日はいい雨が降っているらしい。

縁側でスイカを食べていた時、庭にプッと種を吐き出したら、地面に華麗に着地して、そのままスタスタと歩き去っていった。

ママと涙

この前、妹が生まれた。 パパはとても喜んでいる。 パパは知らないみたいだ。 この子はパパとママの子どもじゃない。 ママが浮気していたのを私は知っている。 ずいぶん前から、ママの様子が変だった。 家事は全部済んだはずなのに、何かしら理由をつけて夜…

月と雨

昨日の夜は一晩中大雨が降っていたが、今朝は気持ちよくカラッと晴れた。 清々しい気分でテレビを点けると、ちょうど天気予報が流れていた。「今夜はキレイな満月が見られるでしょう」 その日の仕事帰り、家路を急ぎつつふと空を見上げると、なるほど確かに…

西日

窓から差し込む西日を何気なく指でつまんだら、案外あっさり剥がれてしまった。 窓の形に剥がれた西日をひらひらさせながら、何か良い使い道はないかとあれこれ考えてみたが、俺の頭では何も思いつかなかった。 一瞬、そういえばトイレットペーパーが切れか…

冷たい風船

冷蔵庫の扉を開けた瞬間、飛び出てきた風船に鼻の頭を小突かれた。 昨日買ってきた手首がどうしても離そうとしなかったので、仕方なくそのまま入れたのだった。 邪魔くさいなぁとは思うが、この風船が萎みきってしまう頃には手首も使い物にならなくなってい…

ある夜、交差点で信号待ちをしていたら、車のボンネットに何かが落ちてきた。 車を降りて拾い上げてみるとそれは流れ星で、表面に苔のようなカビのようなものが薄くびっしりとくっついている。 どうやら色々な人の願い事を背負いすぎ、その重みで落ちてきて…

アラーム

母のアラームランプが点滅している。 思い切って「お袋」と呼んでみたのだが、どうやらまだ早かったようだ。

暑中見舞い

昔の友人から突然暑中見舞いのハガキが届いた。 消印は「海の底」で、スタンプはタコの吸盤だった。 昔から住み家も仕事もふらふら定まらない風来坊だったが、額からちっちゃな提灯が生えた可愛い赤ん坊を抱いているこの写真を見る限り、ようやくあいつも落…

夜のト書き

最初のまばたきの間に部屋の蛍光灯が切れ、 次のまばたきの間にドアが開き、 さいごのまばたきを終えた瞬間、後ろから何かに肩を叩かれる。

めし

めしめし、と鳴く猫を背に、女が台所に立ち尽くしている。 何気なく手をかけた冷蔵庫の中から、人の気配がするのだ。 いつもの肉屋に寄ればよかったのに。

痕跡と目撃者

ホットケーキを焼き上げて皿に載せ、テーブルに置いたところで、ハチミツを切らしていることを思い出した。 何かかわりになる物ないかな、と冷蔵庫の中を覗いていた時、背中の方で何かがピカッと光った。 咄嗟に振り向いたが何もいない。 外の天気も台所の蛍…