超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

雲と歯型

墓の上の空に浮かぶ大きな雲が、細かい歯型とともに小さくなっていく。 墓の下で眠る娘がまたお腹をすかせているらしい。

増築

大人になって自分の家を持った。 金が貯まるたびに、家を上へ上へと増築していった。 夜空の星を少しでも近くで見てみたかったのだ。 ある時ふと気がついた。 星に近づくたびに、接着剤のにおいが強くなっていく。

朝、駅に行くと、3番線に巨大な繭が横たわっていた。 いつもの列車が蝶になろうとしているようだ。 奇妙な静けさの中、4番線にやってきた列車が、いつもの面子を飲み込んだあと、ため息をつきながら扉を閉めた。

刈り

近頃、月が欠けていくスピードが何だか速いなぁ、とは思っていたが、今日スーパーに買い物に行くと、「月」と書かれたラベルが貼られた缶詰が山積みになっていた。

ヌード

裏通りで何だか晴れ晴れとした様子のガイコツとすれ違った。 ガイコツのやってきた方へ歩いていくと、女の髪や皮や指輪が無造作に突っ込まれたゴミ箱を前に、コンビニのアルバイトが呆然としていた。

凪(母)

夏休みのある日、縁側で昼寝をしていた。 一時間くらい経った頃、家の中が急に蒸し暑くなったような気がしてふと目が覚めた。 水を飲もうと台所に行くと、お母さんが風鈴を食べていた。

海と化石

最近、浴槽の水を取り替えようと蓋を開けると、すっかり冷めたお湯の中を魚の背びれがうろちょろしていることが時々ある。 このまま栓を抜いて排水管に詰まっても嫌なので浴槽の中をよく調べてみても、何もいない。 水族館で働く夫に訊いてみると、ちょっと…