超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

青い羽根とささやかな欲望

たくさんの鳩がかたまって、男のようなかたちになったものと、イメクラの待合室でいっしょになった。週刊誌を読むふりをして観察していると、鳩がかたまって男のようなかたちになったものは、ペラペラの安い生地で出来たセーラー服を、きちんと折りたたんで…

月と猫

病院のベッドから窓の外を見ると、空に立派な三日月と、三日月にしがみつく黒い大猫の姿が見えた。猫はふさふさした前足で必死に三日月の端を掴み、ずり落ちないように踏ん張っていて、夜空に投げ出された後ろ足は、じたばたとむなしく空を切っている。目を…

唇とオレンジ

誰も読まないお話をずっと書いている。 今日は頭が砂時計になってしまった男のお話を書いた。男は恋人にふられたりとか、仕事を失ったりとか、色々あって飛び降り自殺するのだが、マンションの屋上から飛び降りたときに、初めて自分の砂が引っくり返る音を聞…

蜂と月

飲みすぎた帰り道に、立ち寄った公園のベンチで横になって、大きな満月を眺めながら涼んでいたら、ガサガサした足音が近づいてきたので、ふと見ると、小さな蜂が足元をぐるぐる這っていた。 無視していると、低い声で「肉のにおいがしますね」と話しかけてく…

自販機とつよい子

薄暗い路地の一角にある、「つよい子」というラベルの貼られた自販機の前で、母さんが目に涙をいっぱいに溜めてじっと佇んでいる。 真新しい丸いボタンの上のガラス窓の向こうには白い霧が満ちていて、その中で、黒い、小さな影たちが蠢いている。影は四方に…

照準と茶碗

まだ幼かった頃、二つ上の兄貴がご飯を食べていたお茶碗にはファンシーなライオンのイラストが、僕がご飯を食べていたお茶碗にはポップな車のイラストがそれぞれ描かれていた。 ある日の夕飯の時間、兄貴が何でもない話をしながらしきりに僕の手元をちらちら…