超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

くちびる

 駅で終電を待っていた。ゴミを捨てようとして、ゴミ箱を何気なく覗き込んだ。くちびるが捨ててあった。真っ赤なルージュをひいた、ぷるぷるの、みずみずしいくちびるだった。誰のくちびるだろう。さっきホームの端で、うずくまって泣いている女を見たが、もしかしてあの人のものだろうか。丸めていたゴミをもう一度広げ、くちびるを隠すように、ゴミ箱の中へていねいに置いた。回送列車が来た。夜の駅を、轟音と涼風が通り過ぎていった。