超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

じゅわき

 かぜにのって、じゅわきのかたちのくもが、あおぞらをながされていく。
 かすかにふるえながら、じりりり、じりりり、とけたたましくベルのおとをならしている。

 だれかでてやれよ、だれかでたほうがいいんじゃない、みんなくちぐちにそういうが、だれもでかたがわからない。
 じりりり、じりりり、かぜにのって、じゅわきのかたちのくもが、あおぞらをながされていく。

 じゅわきのかたちのくもは、かぜにのって、ちきゅうをぐるりとまわった。
 そのあいだ、だれかでてやれよ、だれかでたほうがいいんじゃない、せかいじゅうのひとがくちぐちにそういったが、だれもでようとはしなかった。

 ひこうきなんかをつかえばあるいはでられたかもしれないが、でたあとになにをきいて、なにをいえばいいのか、さっぱりわからなかったし、そのせきにんもおいたくなかったのだ。

 じゅわきのかたちのくもは、けっきょく、ちきゅうをいっしゅうして、もとのばしょにもどってきた。
 そのしゅんかん、ベルのおともぴたりとやんだ。

 ひとびとはほっとむねをなでおろした。
 だれがなんのためにかけてきたでんわだったのか、すこしのあいだ、いろいろなぎろんがかわされたが、やがてそれもすぐにわすれさられた。

 そのとし、ちきゅうでは、れいねんよりもすこしおおくひとがしんだ。