超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

マイ・ウェイ

 解体工事が行われていた病院の一室から、一羽の小鳥が見つかった。それは入院患者が見ていた夢の中に現れたあと、うっかり外へ出てしまった小鳥らしく、羽根の色も、翼やくちばしの位置も、目玉の数すらちぐはぐで、素晴らしく美しいバリトンの声でシナトラの「マイ・ウェイ」を歌うのだった。逃がしても逃がしても元の解体現場に戻ってくるこの夢の小鳥は、仕方なく、予備に用意されていたヘルメットを寝床に、弁当の余りを餌に育てられ、ちぐはぐな姿のまま大人の鳥の大きさへと成長し、解体工事が終わったその日に、工事関係者たちの前で、今まででいちばん感情のこもった「マイ・ウェイ」を歌いながら、空高くへ飛び去っていった。元の夢の中へ戻れればいいが、と工事関係者の誰もが思ったが、その行方はいまだに誰にもわからない。