超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

夏祭り

 仕事帰りにいつもの裏路地を歩いていたら、どこからか祭り囃子が聞こえてきた。音の方に目をやるとほのかに明るい。今年もこの季節がやってきたのか、と思い光を目指して歩いていくと、思った通り、「夏祭り」と書かれた自動販売機が設置されていた。小銭を取り出し、綿あめと焼きそばと金魚のセットを買う。家に帰ってテレビを点ければ、どこかのチャンネルが打ち上げ花火の映像を流しているだろう。それを眺めながら綿あめをちぎり、焼きそばをすすり、金魚を愛でる。綿あめは固いし、焼きそばは不味いし、金魚はどうせすぐ死ぬのだが、そうしていると「今年も夏が来たなぁ」としみじみ感じるのだ。本物の夏祭りにはもう200年以上行っていない。