超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

竜宮城

 活け作りを注文する。板前は威勢のよい返事とともに、濁った生け簀に腕を突っ込む。しばらくごそごそと水をかき回した後、生け簀から出てきた板前の手には、小さな酸素ボンベが握られている。
「すぐに浮かんできますから」
 板前はそう言って爽やかに笑う。傍らの生け簀の底から、無数の濡れた目が私を睨みつけている。