超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

太公望

 部屋の中でうたた寝をしていたはずなのに、水の匂いで目が覚めた。
 なぜか体が動かせなくて、それでも不思議と嫌な感じはなくて、ぼんやりとしていた視界が徐々に晴れていくと、夕暮れの窓に腰掛けた釣り人のシルエットから、私のヘソに向かって釣り糸がまっすぐに垂らされているのが見えた。
「釣れますか?」
「もうすぐね」
 私の中で何かが身をよじらせた。