超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

遅延

 スーツを着た首のない人々が、朝の駅のホームにひしめき合っている。
 彼らの頭を運んでくるはずの列車が、今朝は少し遅れているのだ。
 時計を見る目も、アナウンスを聴く耳も、遅刻の言い訳を考える脳味噌もみんな列車の中だから、彼らは朝の光の中で立ち尽くすことしかできない。
 立ち食い蕎麦屋の親爺はこっそり煙草を呑みながら、久しぶりに訪れた朝の静寂を満喫している。